政界の風を読むー髙橋利行
永田町を「数の力」で牛耳り闇将軍と怖れられた田中角栄には足元を脅かす竹下登や金丸信よりも気にくわない、目の上の瘤(こぶ)とも言える2人の政治家がいた。
河本敏夫と参院のドンと呼ばれた玉置和郎である。三光汽船のオーナーだった河本敏夫は一晩で100億円を調達できるという絶大な資金力を誇っていた。鈴木善幸退陣後の自民党総裁選(1982年)で河本敏夫は田中角栄が推した中曽根康弘の手強い対抗馬になっている。
玉置和郎は宗教法人「生長の家」をバックに宗教団体を「集票マシーン」に変質させた嚆矢(こうし)である。宗教政治研究会をつくり参院の1選挙区当たり2万票を自在に動かすことができると豪語していた。2万票違えば大概の当落が入れ替わる。玉置は、その力で竹下、金丸に加えて安倍晋太郎、宮澤喜一、田中六助、浜田幸一、鈴木宗男らニューリーダーを結集、「田中支配」に牙を向けていた。
政治家にとってカネと票は喉から手が出るほど欲しい。石橋湛山が7票差で劇的な勝利を収めた自民党総裁選(1956年)、池田勇人が過半数を上回ることわずか4票で3選を果たした総裁選(1963年)は「1票の重み」を思い知らしめた。圧勝の3選を信じていた池田陣営は落胆したが、長老の松村謙三が宣った。「1輪咲いても花は花、だよ」。蓋(けだ)し金言である。だが、これが衆院選だったら大野伴睦が言うが如く「猿は木から落ちても猿だが、代議士は落ちればただの人」となる際どい勝負だった。
史上初めての衆参ダブル選(1980年)の終盤のことである。すでに実力者になっていた金丸信の元に若手の中島衛(旧長野3区)が血相変えて駆け込んできた。「親爺さん、少し票が足りないんですっ。助けてください」。「分かった。これを持っていけ」。金丸信は可愛い子分の窮地を救うために3000万円の軍資金を差し出した。平身低頭して地元に戻ると「全部注ぎ込んじゃ勿体(もったい)ないぞ。次のために半分取っておけ」。参謀が鳩首協議して半分を残した。結果、中島衛は214票差で落選した。
永田町には危険がいっぱいある。落とし穴があれば罠もある。隙さえあれば足を引っ張る輩もいる。警察や検察というお目付け役もいる。そのせいか運よく歩き通した先達が立てた看板をあちこちで見かける。「クマ出没注意」「落石に気を付けろ」。ひと際苔生した看板に「生水呑(の)むべからず」とある。うっかり呑むと腹痛を起こすだけでなく一命にも拘(かか)わりかねない。立てたのは「昭和の妖怪」と呼ばれた岸信介である。
何気ない戒めだが、民法学の泰斗・我妻栄と一高、東京帝大で常に首席を争った俊秀である。戦中は軍部と手を組んで満州国を牛耳り敗戦の責任を問われ巣鴨プリズンで処刑される寸前まで追い詰められた御仁である。解き放たれるや、わずか9年で宰相まで上り詰めている。反面、政治家としてはインドネシア賠償利権、韓国利権などダーティなイメージが付き纏った。だが、ついぞ司直の手には落ちなかった。秘訣を問われると「汚れた水は濾過して呑むからな」と嘯(うそぶ)いている。
対照的だったのが田中角栄である。尋常高等小学校卒、いわば裸一貫で伸し上がったこの人物は岸信介の教えなどはなんのその生水をがぶがぶ呑んで宰相にまで駆け上がった。「儂(わし)が泥水を呑んでいるから子分はきれいな水が呑める。儂がいなくなったら政界は『小悪』が蔓延るようになる。へっ」。まるで「人間浄水器」である。確かに、岸、田中以降、世界を股に掛けるような巨悪にはお目にかからない。
永田町は世界平和統一家庭連合(旧統一教会)をめぐって混乱の極みにある。宗教と政治は、どの国でも悩みのタネである。信教の自由、政治活動の自由などが絡んで簡単には律し切れないからである。多神教国家はなおさらである。新興宗教だからと言って一概に「反社会的団体」と決めつけられない。収監されている囚人でさえ有罪が確定しない限り選挙権、被選挙権を行使できる。拘置所で「不在者投票」が許される。田中角栄も炭鉱国管事件で逮捕、起訴されながら「獄中立候補」して当選している。
いま「民意の審判」が行われれば内閣支持率下降中の岸田政権は厳しい。凌(しの)いでいるのは「黄金の3年」のお陰である。とは言え安倍晋三の国葬後は予測不能である。懸念されるのは開成高校野球部で「トンネルの岸田」と揶揄された宰相・岸田文雄の凡ミスと、綺麗ごとの日本新党出身の茂木敏充、乱を好むDNA(遺伝子)を承け継ぐ河野太郎、小泉進次郎の3人の異端児の動向である。(文中敬称略)
(文中敬称略)
(政治評論家)
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