牛乳を飲む人は股関節骨折のリスクが上昇 - 日経Gooday

　高齢化が進むなか、骨折予防を目的に、牛乳やチーズなどの乳製品の摂取が推奨されています。しかし、乳製品と骨折の関係は複雑のようです。米国の研究者たちが、乳製品の種類別に股関節の「大腿骨近位部」の骨折リスクとの関係を検討したところ、一般の人が1日に飲む範囲の量の牛乳の摂取が、大腿骨近位部の骨折リスクの上昇に関係することが明らかになりました（＊1）。

乳製品の種類によって骨折リスクへの影響が異なる可能性があるようです。（写真：nastyakamysheva/ stock.adobe.com）

乳製品はとればとるほど健康に良いわけではない

　大腿骨近位部骨折、すなわち股関節を構成する大腿骨の付け根部分の骨折は、一般に、骨粗しょう症が進み、骨の強度や質が低下した高齢者が転倒・転落した際などに発生します。

　これまでに乳製品の摂取と大腿骨近位部骨折の関係を検討した研究は多数行われてきましたが、一貫した結果を示せていませんでした。

　乳製品の摂取が増えれば、動物性の脂肪（飽和脂肪酸）の摂取量も増えます。また、乳製品の摂取が前立腺がんやその他のがんのリスク上昇に関係するという報告もあります。乳製品はとればとるほど健康に良いわけではないことは、既に示されていました。

　そこで米Maryland大学のSuruchi Mishra氏らは、乳製品の摂取と大腿骨近位部骨折リスクの関係を乳製品の種類別に検討し、さらに、摂取量の増加とリスクの変化の関係も調べることにしました。

牛乳1日400gまでは骨折リスクが上昇、最大15％増

　1946年から2021年12月までに文献データベースに登録されていた、乳製品の摂取量と大腿骨近位部骨折の関係を検討していた観察研究の中から、条件を満たすものを選んでデータを統合し、解析しました。分析対象となった13件の研究は、48万6950人を追跡し、1万5320件の骨折について報告していました。

　乳製品の総摂取量と大腿骨近位部骨折の間には、統計学的に意味のある（有意な）関係は認められませんでした。

　牛乳の摂取と大腿骨近位部骨折リスクの間には比例関係は見られませんでした。摂取量が1日400gに達するまで、骨折リスクは用量依存的に上昇し、400gを超えると用量依存的に低下していました。牛乳をまったく摂取しない人と比較して、大腿骨近位部骨折のリスクが最も高かったのは1日400gを摂取する人で、リスクは15％高くなっていました。

　牛乳の摂取量が1日400gまでの場合、骨折リスクは、200g増加するごとに7％上昇していました。摂取量が400gを超えると、200g増加するごとに骨折リスクは4.5％ずつ低下していました。しかし、まったく飲まない群と比較すると、1日の摂取量が少なくとも750gに達するまでは、骨折リスクが高い状態が続いていました。

　ヨーグルトと発酵乳に関しては、1日の摂取量が250g増加するごとに大腿骨近位部骨折リスクが15％低下するという逆相関関係が見られました。

　チーズについては、1日の摂取量が43g増加するごとに大腿骨近位部骨折リスクが19％低下していました。

　今回の解析では、乳製品の中には、摂取量の増加が大腿骨近位部骨折のリスク上昇に関係するものと、リスク低下に関係するものがあることが明らかになりました。大腿骨近位部骨折のリスクを高める骨粗しょう症の予防には、乳製品に偏ることなく、さまざまな食品からカルシウムやビタミンDなどを摂取し、適度な運動を行うことが大切でしょう。ビタミンDは紫外線を浴びることで皮膚でも合成されるので、屋外で適度に日光に当たり、ビタミンDの生成を促すことも必要です。

＊1　Mishra S, et al. J Nutr Sci. 2023 Sep 11:12:e96.

大西淳子（おおにしじゅんこ）
医学ジャーナリスト

筑波大学（第二学群・生物学類・医生物学専攻）卒、同大学大学院博士課程（生物科学研究科・生物物理化学専攻）修了。理学博士。公益財団法人エイズ予防財団のリサーチ・レジデントを経てフリーライター、現在に至る。研究者や医療従事者向けの専門的な記事から、科学や健康に関する一般向けの読み物まで、幅広く執筆。