国内の酒類メーカーがビール類やRTD(フタを開けてそのまま飲めるアルコール飲料)に関し、低・ノンアルコール化戦略を強化している。人口減少や消費行動の変化などにより、ビール類などの市場の減少傾向が続く一方で、「飲めない人」や「酔いたくない人」のニーズが顕在化。従来のお酒好きに限らない新市場開拓を進めている。飲む人と飲まない人が、一緒に楽しめる新たなコミュニケーション文化の創造がカギになる。(編集委員・井上雅太郎)
5000万人照準、新たな文化創造
「国内で積極的にお酒を飲まないという人は約5000万人と推計される。ビールに隣接するカテゴリー『BAC(低・ノンアルコールや成人向け清涼飲料)』には成長の可能性がある」。勝木敦志アサヒグループホールディングス社長はこう指摘し、「スマートドリンキング(スマドリ)戦略」を推進する。 アサヒビールは20歳以上の人口約9000万人のうち、お酒を飲む人が約2000万人、飲むのが月1回未満の人が約2000万人、残りの約5000万人がお酒を「飲めない」または「積極的に飲まない」と推計する。こうした状況を踏まえ、飲める人も飲めない人も一緒に楽しめる文化・市場の創造を目指すのが、スマドリ戦略だ。
飲めない・飲まない人も楽しめる選択肢を広げるため、同社は3・5%以下の低・ノンアルコール飲料のラインアップ拡充を進めている。2025年までに販売品目に占めるアルコール分3・5%以下の構成比率を20%に引き上げる計画を打ち出している。
すでにアルコール分0・5%のビール風飲料「ビアリー」を21年に発売した。さらに主力ブランド「スーパードライ」からアルコール分を3・5%(既存製品は5%)に低減した「ドライクリスタル」を発売した。これもスマドリ戦略に沿った流れだ。松山一雄アサヒビール社長は「多様化するライフスタイルに対応する間口の広い未来志向のビール」とアピールする。
魅力提案で市場開拓
ノンアルコール飲料市場は今後も成長が見込まれる。09年にアルコール度数0・00%のノンアル飲料が製品化されてから本格的に市場が形成された。その後、メーカー各社がビールテイストでおいしさの改良を重ねたほか、機能性表示食品の開発、ビールテイスト以外のラインアップ拡充を進め市場が広がった。
20年以降はコロナ禍で健康志向が高まり、さらに需要が増加した。22年には4000万ケース(1ケースは8・4リットル)に達し、19年比で約1・2倍となった。しかし23年には新型コロナの「5類」移行で人流が回復し、外食需要が高まったため、家庭用RTDの需要が減少。同年の市場は前年比3%減とマイナスに転じる見通し。それでも健康志向の継続や機能性ニーズ、「あえて飲まない」というライフスタイルの浸透などにより、緩やかに市場は拡大していくとビール各社は見通す。
この流れに沿って、サントリーはノンアルコール飲料の戦略を強化している。アルコール度数0・00%のノンアル飲料の場合、本来なら清涼飲料水に含まれる。同社はこれを再定義して「アルコール0・00%のお酒」と位置付けている。林正人取締役常務執行役員は「お酒が持つすばらしい価値をノンアルコールでも実現し、お酒を飲む人も飲まない人も一緒に楽しめる文化を創造することを目指す」と説明する。
同社のノンアル飲料の23年販売計画は市場が減少する中で、前年比1%増の1712万ケース(同)を見込む。このうち主力のビールテイストはマイナスを見込む一方で、RTDテイストで同17%増、ワインテイストで同11%増に引き上げる計画。
健康志向受け「高機能系」
RTDテイストではウイスキー風味のノンアル飲料「のんある晩酌 ハイボール ノンアルコール」を通年販売商品として投入した。また、主力のビールテイストでは高機能系カテゴリーを拡充している。ビールテイスト市場は22年に19年比で16%増だったが、このうち高機能系はコロナ禍の健康志向の高まりで同2倍以上の伸びとなった。
同社はすでに内臓脂肪を減らす機能系表示食品の「からだを想うオールフリー」を販売しているが、第2弾として記憶力を高めるのに役立つ機能系表示食品の「あしたを想うオールフリー」を発売した。これら商品戦略について林取締役常務執行役員は「ノンアルのおいしさの実現や選択できるラインアップの拡充により魅力を提案する」と強調する。
ノンアルビールテイスト飲料をめぐってはキリンビールは「グリーンズフリー」を展開する。23年1月製造品から中身・パッケージともにリニューアルした。23年の年間販売目標は、前年比約2倍とした。同社のノンアルカテゴリーの主力ブランドとして飛躍的に成長させる考えだ。
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