「最近、酒に弱くなってきたかも」と感じたら、酒との付き合い方を見直す好機だ。長く良い人生のために、健康的に飲む方法を知っておきたい。
【対談】酒の総摂取量を減らして健康長寿に
「心がけ次第で年相応の肝臓を保つことができます」
浅部伸一さん(肝臓専門医・58歳)
昭和40年、大阪府生まれ。自治医科大学附属さいたま医療センター、アッヴィ合同会社勤務。『名医が教える飲酒の科学』(日経BP)ほか、飲酒に関する多数の本の監修に関わる。
「30分ガーッと飲むのと3時間ちびちび。どちらが肝臓にはよいですか」
●福澤朗さん(フリーアナウンサー・59歳)
昭和38年、東京生まれ。フリーアナウンサー。日本酒愛好家として日本酒の魅力を伝えている。著書に『ときめきの日本酒 手軽に愉しむためのビギナーズガイド』(文芸社)等。
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長年の飲酒習慣を急に変えることは難しい。長寿のためにも、酒との付き合い方を考えたい。
福澤朗さん(以下、福澤) 正直に言いますと、私は“休肝日”ゼロです。一日の仕事を終えたらお酒を飲んでスイッチをオフにするのが日課でして、そこまでが仕事だと思っています(笑)。
浅部伸一さん(以下、浅部) 何を飲まれるのですか。
福澤 家で飲む場合、まずは缶ビールを500mL、そのあと日本酒を2合飲んでいます。外ではもっと飲んでしまいますね。
浅部 私も日本酒がいちばん好きですが、家で飲むなら1合程度にしています。とはいえ、じつは私も休肝日ゼロなんですよ(笑)。
肝臓=沈黙の臓器の理由
福澤 肝臓は「沈黙の臓器」といわれますが、なぜ、かなり悪くなるまで分からないのでしょうか。
浅部 肝臓はものすごく大事な臓器なので、そもそも少しくらい炎症が起きても大丈夫なようにできています。痛みを感じる神経が表面にしかなく、再生能力も高いので、多少のダメージでは症状に表れません。ですから、肝臓疾患が原因で40歳で亡くなる人は滅多にいないのです。逆にいえば、40歳くらいまではけっこう無茶しても、肝臓は平気なのです。現代は多くの病気を治したり、克服できるようになったため、時として肝臓が先にダメになる人が増えてきた、ともいえます。
福澤 なるほど、昔は人生50年でしたからね。今は人生100年時代ですから、肝臓を患う人が多くなるかもしれませんね。自覚できないのが怖いところですが、肝臓の状態を見極める方法はあるでしょうか。
浅部 二日酔いはひとつのサイン。肝臓だけではなく、いろいろな臓器がダメージを受けているという証拠です。
福澤 たとえば、酒を2~3杯飲んで、「あれ? 今日は調子がよくないかな」と思ったら、その日はもうやめどきですか。
浅部 はい、むしろ飲み始めは自覚しやすいですね。アルコールの処理は肝臓にとって負担になる作業なので、肝臓に余力がないと「調子がよくない」とか「酒のまわりが早い」と感じるのでしょう。他には、γ(ガンマ)‐GTPなど肝機能検査の値も肝臓の状態を知る目安になります。
福澤 肝臓を若い頃のような状態に戻す訓練法はありますか。
浅部 残念ながら、年相応に健康な肝臓をそれ以上に強化する方法はありません。ただ、肝臓の調子が少し落ちているくらいであれば、回復させることはできます。注意したいのは中性脂肪が肝臓に蓄積する脂肪肝。放置するとじわじわと肝硬変に移行していく場合があります。脂肪肝は酒の飲み過ぎか運動不足が主な原因です。酒が原因なら酒量を減らす。肥満や運動不足が原因なら、運動をする。それで年相応に戻すことは可能です。
1週間単位で酒量を減らす
福澤 先生は、どのように酒量を抑えていらっしゃいますか。
浅部 1週間単位の総量を減らしています。1~2日極力飲まない日を設けるだけで、他の日は同じようにやっています。外では飲み過ぎるので、途中でノンアルコール飲料を挟んだりもしますよ。
福澤 なるほど。私も最初のビールをノンアルにしようかな。そうすれば、総摂取量は減りますね。他にも、肝臓に負担をかけないコツはありますか。
浅部 肝臓でアルコールを分解するのには、けっこう時間がかかるんです。次から次へと飲むと分解が間に合いませんから、飲むペースを落とすことが大事です。そのためには、食事をしながら飲むことが大切。胃の中に食べ物があればアルコールも胃に留まり、吸収をゆるやかにできます。また、アルコールは飲んだ量以上の水分を尿として排出する作用があるので、脱水症状にならないよう、必ず同量以上の水を飲んでいます。
福澤 では、30分で一気に飲むより、ちびちびダラダラ長く飲んだほうがいいんですね。
浅部 同じ量を飲む場合は後者ですが、往々にして、長く飲むと飲み過ぎるものですよ(笑)。
50歳から心がけたい飲酒5箇条
1.酒の総摂取量を減らす
2.食事をしながら飲む(空腹で飲まない)
3.酒と同量の水を飲む
4.“ゆっくりちびちび”味わって飲む
5.途中にノンアルコール飲料を挟む
50代からは、肝臓に負担をかけない飲み方に切り替えるとよい。今まで飲んでいた酒量より少なくして、酒の総摂取量を減らすことから始めたい。できるだけ長く健康的に酒を楽しむためには、一気にたくさん飲まないよう工夫するのが肝要。
※イラストと表は浅部さんの著書より作成
※この記事は『サライ』本誌2023年8月号より転載しました。
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